エディブルフラワーの市場調査についてまとめました(2020/03/03に投稿)
1. エディブルフラワーのマーケット規模(市場規模調査)
国内におけるエディブルフラワーの市場規模は2-3億円とされています※1。
国内の野菜の市場規模が2兆円に対して約0.01%と非常に小さい市場である一方、食卓を彩る重要な食材として近年注目をあびており、カフェやシェフなどの方々からのニーズが増しています。
※1.大田市場関係者からのヒアリング内容および
【参考資料】平成26年産地域特産野菜生産状況 調査(愛知県版)の調査結果を参照
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/224944.pdf
2. エディブルフラワー生産者の事業者数
国内におけるエディブルフラワーを生産する農家・生産組合数は、100件程度と推定されます(2019年:自社調べ)。生産規模の大きい生産組合では年間数トンの食用花を生産をしていますが、それ以外の生産者は年間数キロ程度の生産にとどまっています。一方で、ニーズの増加にともない、植物工場の生産拠点を含めた新規参入者は増加傾向にあります。
海外においてもエディブルフラワーの生産拠点は増加傾向にあり、食の都として知られるイタリアでは、国を挙げて「エディブルフラワー生産研究会」を立ち上げるなど、生産拠点を増やす動きをみせています。
引用元:keep eu.
3. EDIBLE GARDENにおける事業者の内訳
EDIBLE GARDENにおける2020年1月時点までのエディブルフラワーの販売業態ごとの売上比率は「カフェ:35%」、「洋菓子店:24%」、「仲卸:15%」、「フレンチレストラン:10%」の順で高く、そのほか、「小売店:5%」、「婚礼会場:4%」、「ホテル:3%」などへの販売も展開しています(図1)。特にカフェでは、「農薬不使用栽培なので、洗いや下処理の必要もなく手間をかけずに使用できる」、「簡単にメニューを彩ることができる」など、限られた調理作業の中で「インスタ映え」に対応できるメニューを提供できることから、需要が伸長しています。
図1.2020年1月時点におけるEDIBLE GARDENにおける食用花の業態別の売上比率
4. 事業者の利用動向
4-1.カフェや洋菓子店での利用増加による「身近で馴染みのある食材」への変移
カフェや洋菓子店において、”インスタ映えブーム”をはじめとし、「いかに写真に美しく映るメニューを提供するか」という目的に対して、エディブルフラワーを使用する頻度が増加している傾向が見受けられます。つまり、今までは高級レストランなどでしか提供されなかったエディブルフラワーが単価が低く、学生などでも購入することができるカフェメニューで提供されることが多くなったことを示します。このことで、エディブルフラワーは「高級店でしか扱われない食材」から「身近で馴染みのある食材」に変移しようとしています。
4-2.ウェディング業態での使用拡大は緩慢に?
先に記載した通り、”カフェや洋菓子店での利用により、エディブルフラワーがより身近になった”ことで、ウェディング会場をはじめとした婚礼シーンでのエディブルフラワーの使用拡大は緩慢になっていることが示唆されます。
オーダーメイドウェディングケーキを製造、販売する企業の担当者は、「直近半年くらいでケーキにエディブルフラワーの装飾を希望するお客様(新郎新婦)が減りました。」と話しています(2020年2月時点 自社調べ)。
一方で、身近になったことにより、エディブルフラワーに対する認知度、理解度が増したことで、「白色の花だけに統一してウェディングケーキを装花してほしい。」「食用バラやノースポールなどの希少性の高い花を使ってほしい」などといった、より詳細なオーダーのニーズが増えはじめています。
4-3.一流シェフによるクリエイションの多様性によるニーズの増加
一流シェフによる料理のクリエイションは日々、進化しています。クリエイションの多様化により、使用される食材も多様化してきており、木村拓哉主演ドラマ「グランメゾン東京」を監修していたINUAでは、日本固有のバラ”ハマナス”をはじめとした食用バラをグランドメニューに使用するなど、花が有する独自の香りや味わいを料理の重要な食材として位置付けています。
花の香りや味は、野菜や果物などの香りや味わいと一線を介する独特な品質を有しており、今後、こだわりを追求するクリエイションにエディブルフラワーが使用される機会が増えていくことが期待されます。それに伴って、トップシェフによる「エディブルフラワーのフードペアリング」の研究が進んでいくと考えられます。
5. マーケット概況
5-1. 国内外のマーケット概況について
国内のエディブルフラワーの市場規模は、2009年から2013年の4年間にて120%増であり、増加傾向をみせています※2 ※3。また、アメリカ、ヨーロッパ、北欧をはじめとした国外の市場規模は直近2,3年にて200%~300%の需要増であると推定されています。
※2:平成22年産 地域特産野菜生産状況 調査(愛知県追加調査分) の調査結果
https://www.pref.aichi.jp/engei/web/yasai-chousa/h22tokusanyasai-keka.pdf
※3:平成26年産地域特産野菜生産状況 調査(愛知県版)の調査 結果
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/224944.pdf
5-2. 今後のマーケットの伸展について
Instagramを中心としたSNSへのエディブルフラワー投稿は増加しており、Instagramでは「#EDIBLEFLOWERS」にて、約49.9万件の投稿があります(2020年2月20日時点)。カフェや自宅でも美しく料理を提供できることはエディブルフラワーの大きな強みであり、利用シーンに合わせたレシピやコスト感の提案をしていくことで、国外におけるマーケットの成長率200〜300%のように、さらに市場が拡大していくと考えられます。また、日本ホームパーティー協会が2017年2月に発表した調査(図2)では、エディブルフラワーを「食べたことがある」人が59.5%、「よく食べる」人が16.7%と報告されており、ホームパーティーでの使用シーンも確実に増えてきていることが明示されています。今後、サラダ、スイーツ、オードブルなどの使用方法、レシピを定期的に提案していくことで、カフェやレストランでの活用のみならず、家庭においても新しい楽しみ方を提供できると期待されます(図3)。
図2. 食べる花「エディブルフラワー」を楽しんだことがある人の割合(一般社団法人 日本ホームパーティー協会による調査から引用)
図3. 「エディブルフラワー」を楽しみたいレシピとは?(一般社団法人 日本ホームパーティー協会による調査から引用)
<調査概要>
調査期間:2017年2月
調査方法:各種ソーシャルメディアを活用/選択式、自由回答式
調査対象:18歳以上のホームパーティーに関心のある男女から得られた有効回答
6. 市場の課題
6-1. 市場の90%のエディブルフラワーは農薬使用栽培であること
市場に流通しているおよそ9割のエディブルフラワーは、野菜の栽培方法に準じて農薬が施与されています。花は、葉や茎と異なり、農薬の吸収率や残留性が高まることが示唆されています※5。農薬を施与したエディブルフラワーから残留農薬が検出されていることからも、食用に供する花は化学農薬を使用していないことが望ましいといえます。
※5.エディブルフラワーにおける残留農薬について ~なぜ化学農薬不使用の食用花のみしか取り扱わないのか?~
https://ediblegarden.flowers/portfolios/labo2/
6-2. 市場品は品種や色味が指定できないこと
市場に流通しているエディブルフラワーは品種や色味の指定できない(しづらい)と言われています。それは、そもそもエディブルフラワーの生産量が少ないうえに、市場(大田市場や豊洲市場など)に卸される花が日ごとに品目や数量が変動するためです。レストラン等に食材を卸している仲卸会社が品種や色味を選んで仕入れができず、在庫のバリエーションが乏しいため、シェフや店舗バイヤーから希望するエディブルフラワーが仕入れられないとの声があがっています。
6-3. 鮮度の良い花が手に入りづらいこと
一般的な食用花は、「生産者→生産者組合→市場1(→市場2)→仲卸→お客様」という流れで流通しています。つまり、生産者が収穫してからお客様の手元に届くまで、2日以上経過している計算となります。流通過程が長ければ、それだけ鮮度が落ちて、品質が劣化してしまうことになり、花がフレッシュな状態を保つことが難しくなります。
7. 注目トピック
7-1. キャラクターコラボイベントやポップアップにおける活用が増加
エディブルフラワーはメニューに彩りを付与するだけでなく、花の雰囲気に合わせた演出をすることが可能です。アニメなどのキャラクターとコラボしたメニューにおいて、キャラクターを象徴するような色やイメージに合うエディブルフラワーを使用することで、他の食材よりも工数が少なく、素敵に演出をすることが可能です。
お花のイメージ例:炎を連想させるような赤色でエッジの効いた花、知的さや聡明さのキャラをイメージする青色系の花など
■ 実績例
・アニメイトカフェ「MANKAI STAGE『A3!』~AUTUMN 2020~」
・ポトマック「Fate/stay night」「Fate/hollow ataraxia」とコラボしたカフェ“Copenhagen”
7-2. 大規模なイベントでの活用が増加
大規模なイベントにおいて、なるべく安価に工数を極小化しながら彩りを演出するメニューにおいて、エディブルフラワーのご活用シーンが拡大しています。日本最大級規模の花のイベントである「FLOWERS BY NAKED」や「午後の紅茶」のポップアップイベント等、ハーブやフルーツと合わせたエディブルフラワーの使用により、メニューを華やかに演出する事例が増えています。
■ 実績例
・午後の紅茶 X‘mas Garden produced by Nicolai Bergmann Flowers & Design
8. 将来展望
8-1.まだまだ伸びしろのあるエディブルフラワー市場
前記の5-1の”マーケット概況”に示した通り、欧米を中心とした成長率を考えると、日本でもまだまだ成長の伸び率があると示唆します。日本の成長が欧米に比較して緩慢なのは、現状に記載した「商品種類の少なさ」や「フレッシュなものがない」という商品性がシェフの求めるニーズに達していないため、エディブルフラワーが採用されないケースが多いと推察します。
また、Instagramを中心としたSNSへのエディブルフラワー投稿は増加しており、Instagramでは「#EDIBLEFLOWERS」にて、49.9万件(2020年2月20日現在)の投稿があり、約1年半前の23万件(2018年7月末日時点)から2倍以上にて激増しています。
カフェや自宅でも美しく料理を提供できることはエディブルフラワーの大きな強みであり、利用シーンに合わせたレシピやコスト感の提案をしていくことで、諸外国における成長率300%のように、さらに市場が拡大していくと考えられます。また、前記の7-2の”今後のマーケットの伸展について”でふれたとおり、ホームパーティーでの使用シーンも確実に増えてきていることから、サラダ、ドリンク、スイーツ、オードブルなどの使用方法、レシピを定期的に提案していくことで、一般顧客にも新しい楽しみ方を提供できると期待され、エディブルフラワー市場がさらに活性化していくと推察します。
8-2. “未来の食材”として注目されるエディブルフラワー
エディブルフラワーは「栄養成分や機能性成分」が非常に高いことから”未来の食材”として注目されています。NASAでは2016年にスペースシャトル内で植物工場システムを利用した「エディブルフラワー」の栽培に着手する※6など、宇宙環境での栽培試験もスタートしています。エディブルフラワーはビタミンCやビタミンAなどの栄養成分、ポリフェノールなどの機能性成分を非常に多く含有します。特にポリフェノールにおいては、ビオラやバラなどで全世界の食材においても世界トップクラスの含量を有していることが弊社の調査により明らかになりました※7。
※6:NASAのスペースシャトル内でのエディブルフラワー栽培事例
https://www.nasa.gov/mission_pages/station/research/news/flowers
※7:食用花ビオラに全食材トップクラスのポリフェノール含有量を証明”エディブルフラワーのスーパーフード宣言”
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000030481.html